ことほぎのきみへ
「…」


ざーっと蛇口から水が流れていく

それを止めると言う当たり前の行動ができないくらい、意識があの夢に囚われていた



ぼんやりとそれを眺めたまま

まだ頭の中に響く言葉に耳を傾ける



『……なんで、なんでっ!!
助けてくれなかったの!!!』


……


あの夢を見るのは

毎年の事

けど、慣れることも受け入れることも出来ない


忘れるな忘れるなと
記憶に刻みつけるように鮮明に耳に残る言葉



「……ご……」



ごめんなさい


と、口にしそうになって慌てて口を押さえた



「…」


……それは一番言っちゃいけない言葉



ぐっと飲み込んだ



ぴんぽーん



響いたインターホンの音にはっと我に返る


出しっぱなしだった蛇口の水を慌てて止めて
洗面所を出た



ぴぴぴぴんぽーん
ぴ、んぽーん……



……この変な鳴らし方……


早く開けろと催促するように鳴り続けるインターホン

小さな子供がいたずらをするように

こんな風に何回も鳴らす人物は……



ひとりだけ思い浮かぶ



がちゃりとドアを開ける


そこにいたのは予想通り



「や。いろちゃん」

「……亜季」



にこやかに笑う亜季だった
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