ことほぎのきみへ
……
……
……



「じゃあ、いろはちゃん」

「何かあったらちゃんと連絡してよ?」


玄関先で靴を履き終えたふたりは揃って私を振り返る

スマホを取り出して釘をさすゆうりに笑顔を返して、頷く


「うん。ゆうり、ゆまちゃん、ありがとう。
気をつけて帰ってね」

「うん。またね
お邪魔しました」

「また連絡するから」



またねと軽く手を振って玄関を出ていくふたり
手を振り返しながら、見送った


……
……
……


ゆまちゃんとゆうりが帰った後



「…」



人の気配がなくなったリビングに立ち尽くす


ひとりになった途端
じわじわと不安が押し寄せてくる



カチカチカチカチ



……時計の音がやけにうるさく聞こえる


その音がさらに胸のざわつきを加速させていく



……
……
……多分、今夜は……



また、あの夢を視る



そんな予感があった




「……嫌だな」




無意識に漏らしたその言葉にも気付かず

重い気持ちのまま私は自分の部屋に向かった






いっそのこと起きていようかなんて思ったけど

そう言う時に限って眠気に襲われる


気をまぎらわせようと
料理本を眺めていたけど
だんだんその文字がぼやけてきて

瞼も重くなっていく



こくりこくりと舟をこいで


やがて私はそのまま眠りに落ちた
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