ことほぎのきみへ
『…』
『…そんな見ていて面白いものじゃないと思うけど』
『!』
距離はとっていたけど視線には気付かれていたみたいで
あの人はスケッチブックに向けたままだった顔をこちらに向けた
『制服…さぼり?』
『えっと…』
『見る?大したものじゃないけど』
『…え?』
そう言って彼はスケッチブックを私に差し出した
『…』
そっと受け取って、その絵を眺めた
……とても、不思議な絵だった
夜の海にただずむ二人がいて
表情は見えないけど
その後ろ姿や距離感から
二人の関係性や今抱いてる感情がどんなものか
想像を掻き立てられた
それを見て感じたのは
寂しさとか切なさとか
愛しさとか
…あたたかさとか
白黒の絵のはずなのに
色なんてないのに
色がついてるように思えた
青からオレンジ
オレンジから赤
赤から桃色…
見るたびに色が変わっていく気がした
見ていると泣きたくなるような
あったかくなるような不思議な絵
『……不思議な絵ですね…』
『そう?』
『ありがとうございます』
『どういたしまして』
…
…
…
『立ちっぱなし疲れない?座れば?』
『…』
なんとなくその場を後にする気になれなくて
立ち尽くしていたら
彼が不思議そうに視線を寄越し
そう言ってくれた
『…』
『…』
彼の隣にお邪魔して海を眺めた
いきなり現れて隣に居座る私を気にすることなく
彼はまたスケッチブックに絵を描き始めた
…
…
『何か嫌な事でもあったの?』
『え?』
『疲れたような顔してたよ』
手を休めることなく動かしながら
唐突に彼は話しかけてきた
不思議な人だった
見ず知らずの相手だって言うのに
友人に語りかけるようにごく普通に自然に言葉を向けてきて
警戒や不信、嫌悪や不快、好奇
そういった感情を向けてこなかった
こんなにも感情や表情が読めない相手に出会ったのは彼が初めてだった
『…そんな見ていて面白いものじゃないと思うけど』
『!』
距離はとっていたけど視線には気付かれていたみたいで
あの人はスケッチブックに向けたままだった顔をこちらに向けた
『制服…さぼり?』
『えっと…』
『見る?大したものじゃないけど』
『…え?』
そう言って彼はスケッチブックを私に差し出した
『…』
そっと受け取って、その絵を眺めた
……とても、不思議な絵だった
夜の海にただずむ二人がいて
表情は見えないけど
その後ろ姿や距離感から
二人の関係性や今抱いてる感情がどんなものか
想像を掻き立てられた
それを見て感じたのは
寂しさとか切なさとか
愛しさとか
…あたたかさとか
白黒の絵のはずなのに
色なんてないのに
色がついてるように思えた
青からオレンジ
オレンジから赤
赤から桃色…
見るたびに色が変わっていく気がした
見ていると泣きたくなるような
あったかくなるような不思議な絵
『……不思議な絵ですね…』
『そう?』
『ありがとうございます』
『どういたしまして』
…
…
…
『立ちっぱなし疲れない?座れば?』
『…』
なんとなくその場を後にする気になれなくて
立ち尽くしていたら
彼が不思議そうに視線を寄越し
そう言ってくれた
『…』
『…』
彼の隣にお邪魔して海を眺めた
いきなり現れて隣に居座る私を気にすることなく
彼はまたスケッチブックに絵を描き始めた
…
…
『何か嫌な事でもあったの?』
『え?』
『疲れたような顔してたよ』
手を休めることなく動かしながら
唐突に彼は話しかけてきた
不思議な人だった
見ず知らずの相手だって言うのに
友人に語りかけるようにごく普通に自然に言葉を向けてきて
警戒や不信、嫌悪や不快、好奇
そういった感情を向けてこなかった
こんなにも感情や表情が読めない相手に出会ったのは彼が初めてだった