ことほぎのきみへ
……花菜も、お父さんも泣いてる


声をかけたくても
何も言葉が出てこなくて


手を伸ばしたくても
体が動かなくて


段々、ふたりの声が遠ざかって

姿も霧がかかったように見えなくなっていった


……
……
……




「…」



すっと目が覚める


…………今夜は、あの時の、記憶……


横になったまま
ずきずき痛む胸を押さえて、小さく体を丸める


一昨日みたいに飛び起きるような夢では…記憶ではなかったけど


それでも、目覚めは良くない


「…」



…………見せないようにしてても


影で泣いているのを知っていた


みんなみんな


私の前では泣くのを堪えてたのを知っていた





……憎悪が痛くて

……優しさが辛くて




私は今でも本当の意味で

みんなと向き合えてない


罪悪感と後悔で、胸がいっぱいになって


いつもいつも目を逸らしてしまう


うつ向いてしまう




……どうすれば良かったのかな


どうすれば良いの?


……どうすれば、皆が少しでも幸せになるだろう




『あなたが死ねば良かったのに』




「…………私が、いなくなったら……」



皆、笑ってくれるかな

……あの人も
前みたいに優しいあの人に戻ってくれる?


優も花菜も、お父さんも


原因の私がいなくなれば
あの日を思い出す事はなくなる?


皆、あの日を忘れて


幸せに生きれる?



……
……
……


…………そんなのただの逃避だ


私が死んだって、お母さんは戻って来ない
お母さんが死んだ事実は変わらない


その存在や記憶は消せない


ふとした瞬間、きっかけで思い出す


大事な人だったんだから
簡単になくせるはずがない
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