ことほぎのきみへ
『…人の命を奪っておいて、なにを呑気に生きてるの?』



……痛い




『あの子はもう、笑うことも泣くこともできないのに』



……心の深く深くに突き刺さって抜けない



『……ねえ、なんで、あなたが生きてて
あの子がいないの?』



…痛みだけが、増していく




『……おかしいわよ』


「…」


『……どうしてなの……』


「…」





『…………【ゆずき】……』



……
……
……



最後に聞こえたのは


すすり泣く声と、あの人にとって最愛の人の名前





「…」



ぷつりと切れた通話



ツーツーツーツー……



耳に響くのは無機質な機械音



ふっと体の自由が戻ってきて
私は静かに受話器を戻した



「…」




ふらふらとその場に崩れ落ちる



……尋常じゃない汗と、心臓の音


髪の毛が汗で肌に張り付いて気持ち悪い

心臓の音が大きすぎて、周りの音が聞こえない


いまだに震える体を抱き締めるように押さえて
乱れた呼吸をゆっくり整える


……
……
……



……深い愛情

ゆえの大きな悲しみと怒り



風化することなく、その思いは募ってる


今も尚、大きくなっているそれに


一番、囚われているのは……


他でもないあの人自身





……なにも、言えなかった



返せなかった

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