ことほぎのきみへ
「…」



……また、電話がかかってくるような気がして


痛い言葉が飛んでくる気がして


あの日の記憶を突きつけられる事が


それがすごく怖くて 、嫌で




もう、日も暮れる時間帯なのに



私はそのまま逃げるように家を飛び出した







……
……
……




…………気づいたら、 私はあの場所に来ていて



……きっとここは
私にとって逃げ場のようなものなんだろう



潮騒の音を聞きながら、ぼんやりそんな事を思う


昔となにも変わらない綺麗な景色を眺めながら
そのままその場に座り込む



沈む夕日が海を赤く染めている



「…」



あたりを見渡す



堤防の上には私以外、誰もいない


砂浜にも波打ち際にも

どこを見ても人の姿は見えなかった



「…」



……いるはずないのに、あの人の姿を探してしまって


そんな自分に嘲笑を浮かべる



「……馬鹿だな…私……」




抱えた膝の上に顔を埋める




……助けてもらいたかったの?



だから、ここに来たの?



自分に問いかける




……あの人なら、この気持ちを消してくれると思った



ぐちゃぐちゃして
痛くて苦しいこの思いをなくしてくれるって




「……最低……」



自分が背負うべきものを
誰かに押し付けようとした


なにも知らない相手に


無責任にすがろうとした

< 98 / 252 >

この作品をシェア

pagetop