そんな恋もありかなって。
だが、そもそも断ったのは杏奈なのだ。
広人と何度か会っていい感じだと思えることも多々あった。
広人の発言だって、思わせ振りなことを言っていたようなそうでもないような、今となってはよくわからないけれど、でも好意は持ってくれていたのではないかと思える。
ただ、はっきりとした言葉を聞くことはできなかった。

(広人さんは私のこと、どう思っていたんだろう?)

杏奈にとって、こういう経験は初めてだ。
学生の頃から女磨きだけはバッチリしてきた。
生まれもった容姿は“美女”なんて持て囃されるくらいで、雄大と共に「美男美女だね」なんて言われていたくらいだ。
雄大と付き合っていても、声をかけてくる男性は数多といた。
杏奈自身もそれを一種のステータスのように感じていたし、自信にも繋がっていたのだ。

(…なのに。)

広人のことを考えると妙な怒りがふつふつと込み上げてくる。
気に入ってくれたのなら“好き”とか“付き合おう”とか、言ってくれてもいいものなのではないか。

(だってそうじゃなきゃ、次も会いたいだなんて思わないでしょう?)

3回も会っておいて、連絡先すら交換しなかった。
もちろん杏奈から切り出してもよかったのだが、何となくプライドが邪魔をして聞けないでいた。

よくわからない態度の広人も、期待してしまって自己嫌悪に陥る自分自身にも、杏奈は苛立っていた。

「はー、むかつく。」

毒を呟いたところで、前から歩いてきた人とおもむろに目が合ってドキリとする。
今しがた杏奈の頭を悩ませている広人その人だったからだ。

< 20 / 50 >

この作品をシェア

pagetop