溺愛依存~極上御曹司は住み込み秘書を所望する~
それなのに同居を解消せずにいたのは、専務と広海さんと過ごすにぎやかな毎日が心地よかったから。
けれど許嫁がいることが明らかになった今、このマンションで彼と一緒には暮らせない。
キャリーケースを取り出し、楽しかった思い出を振り払うように衣類を次々に投げ入れる。しかしその動きも、広海さんの手によって簡単に阻止されてしまった。
「あのさ。勝手なことされると俺が兄貴に叱られるんだけど?」
私の腕を掴んだ広海さんが愚痴る。
「そんなこと知らない。私はもう、専務とはなにも関係ないんだから」
許嫁がいたことを認め、私の前から突然姿を消した専務に対して苛立ちが募っていき、心ない言葉が口を衝いて出てしまった。
「それ、本気で言ってんの?」
私を見つめる広海さんの表情が険しくなる。
関係ないなんて、本心じゃない。許嫁がいたとしても、私は彼のことが好き……。
高ぶった気持ちが次第に落ち着き、この場にいない彼への思いが心の中で大きく膨らんでいった。すると、広海さんの口から思いがけない言葉が飛び出す。
「俺たちも京都に行こう」
同居を解消するのはいつでもできるし、ここで彼が帰ってくるのを待っているのは、もどかしい。
「うん」
専務がどのようなケジメをつけようとしているのか知るために、京都に行くことを決めた。