溺愛依存~極上御曹司は住み込み秘書を所望する~
彼の口から出た褒め言葉は、恥ずかしいけれどうれしい。
「……あ、ありがとう」
たどたどしくお礼を伝えた。でも彼の話はこれで終わりではなかった。
「でもアンタ、兄貴とシたんだろ?」
彼の言いたいことがイマイチ理解できない。
「したって、なにを?」
「婚前交渉」
運転手さんに聞こえてしまうような声をあげる彼を前に、慌てふためく。
「ちょ、ちょっと! 変なこと言わないでよ!」
「変なことじゃないじゃん。愛を確かめ合ったんだから」
「そうだけど……」
たしかに彼の言う通りだけど、恥ずかしいことをあっけらかんと話せるほど、私はおおらかではない。
「俺を選んでもらえなかったことは悔しいけれど、アンタたちを邪魔するつもりはないから安心して。ふたりできちんと話し合って仲直りしたら、兄貴に京都を案内してもらえば?」
「う、うん」
ふざけた様子から打って変わり、真面目な面持ちで話す彼にうなずく。
「菜々子さん、兄貴と幸せに」
彼の口から私の名前が初めて紡がれた。
私を思い、そして幸せを願ってくれる彼に返す言葉は、これしか思い浮かばない。
「ありがとう」
広海さんが願ってくれたように、専務とふたりで幸せになれる未来が訪れることを心の中で祈った。