溺愛依存~極上御曹司は住み込み秘書を所望する~

「ここが萌の家」

タクシーから降りた先にある、瓦屋根がついた立派な門構えを見て衝撃を受ける。

「萌さんのご両親ってなにをされている方なの?」

道に沿って続く長い外壁の奥にある純和風造りの家屋はとても大きくて、つい立ち入ったことが気になってしまった。

「萌の父親は喜多川呉服店の社長だけど、それがどうかした?」

「う、ううん。なんでもない」

許嫁の彼女が社長令嬢だった事実に驚きつつ、慌てて首を左右に振った。すると門の格子戸の向こう側で、専務と女性が談笑している姿が見えた。

彼の隣で笑みを浮かべる女性が、許嫁の萌さんなのだろう。

紺色のワンピースを身にまとった姿はとても清楚だし、にこやかな笑顔は夏の日差しに負けないほどまぶしくて美しい。

平凡でとくに取り柄もない私より、家柄もよくて上品で美人な彼女のほうが、フジオカ商事の次期社長になる彼に相応しい……。

そんな思いがフツフツと込み上げてきたとき、彼と目が合ってしまった。

「菜々子?」

彼が驚いた様子で私の名を呼ぶ。

悲観的な思いが頭の中でグルグルと渦を巻いている今は冷静に話せる自信がなくて、彼に背中を向けると一目散に走り出した。けれど私がどんなに全力で走ったところで高が知れている。

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