溺愛依存~極上御曹司は住み込み秘書を所望する~
あっという間に追いつかれ、手首を掴まれてしまった。
「どうして俺を避ける?」
「そ、それは……」
少し走っただけなのに、息が上がって言葉が続かない。
「場所を変えよう」
肩を荒く上下させる私を見兼ねたように彼が言った。
「……はい」
手首を掴まれたまま足を進めて大通りに出ると、彼が通りかかったタクシーを止める。私の次に後部座席に乗り込んだ彼が「京都駅まで」と行き先を告げると、タクシーがなめらかに発進した。
エアコンの効いた車内は、蒸し暑い外とは違ってとても快適で、乱れた息も次第に整ってきた。
「どうして俺を避けた?」
私の隣で、彼がさっきと同じ質問を口にした。
京都を訪れたのは、彼から逃げるためではない。
彼が許嫁の萌さんとご両親に、どのようなケジメをつけようとしているのか知るために、京都に来たのだ。
「あの方が許嫁の萌さんですか?」
本来の目的を思い出し、彼に尋ねる。
「ああ、そうだ。そういえば菜々子に萌のことをきちんと説明していなかったな。少し長くなるが聞いてくれるか?」
「はい。もちろんです」
彼が許嫁の件を、きちんと説明してくれることに安堵しながらコクリとうなずいた。