溺愛依存~極上御曹司は住み込み秘書を所望する~
「夏休みになると京都にある母親の実家に帰省するのが、藤岡家の恒例なんだ」
「そうですか」
ゆっくりと語り始めた彼の横顔を、じっと見つめる。
「俺の母親と萌の母親は幼なじみで、京都に帰ったときは必ず会うほど仲がいい。俺のことをマーくん、広海のことをヒロくんと呼んで無邪気な笑顔を見せる小さい萌は本当にかわいかったし、年に一度しか会わないのにすごく懐いてくれてうれしかった」
幼い頃の彼女はきっと、天使のように愛くるしかったのだろう……。
黙ったまま彼の話に耳を傾けた。
「俺たちが許嫁になったのは萌が五歳のときだ」
「えっ、五歳?」
私が知らない彼の少年期の頃の話を微笑ましく聞いていたものの、五歳という年齢に驚いてしまう。
「東京に帰る俺に向かって萌が『大きくなったらマーくんのお嫁さんにして』と言い出した。泣きじゃくりながらそんなことを言われたら、NOとは言えなかった」
過去を思い出すように目を細めた彼が話を続ける。
「それ以来、京都に行くたびに『萌はマーくんの許嫁だよね?』と聞かれるようになった。でも泣かれると面倒くさいから否定はしなかった。許嫁のことを口にしなくなったのは萌が中学に進学した年だったと思う。きっと好きなヤツができたのだろうと思って俺もそれ以来、許嫁のことに触れるのをやめたんだ」