溺愛依存~極上御曹司は住み込み秘書を所望する~
ここがタクシーの中じゃなかったらよかったのに……。
早くふたりきりになりたいという気持ちが込み上げてきたとき、彼が思わぬことを言い出した。
「すみません。行き先を嵐山に変更してください」
タクシーの運転手さんがすぐに「はい」と返事をする。
新幹線で東京に帰ると思っていた私にとって、彼のこの言葉は予想外。
「専務?」
「明日も休みだし一泊しよう」
同意する間もなく決まった出来事に驚く。
「嵐山には行ったことある?」
言葉を失っている私に向かって、彼がニコリと微笑んだ。
「いいえ。ないです」
修学旅行で清水寺と金閣寺を訪れたことは覚えている。でも、それ以外の記憶は曖昧だ。
「そうか。それなら嵐山の案内は俺に任せて」
「はい。よろしくお願いします」
毎年京都を訪れている彼なら、意外な穴場も知っているのかもしれない。
頼りがいがある彼を前に気持ちが高ぶってくるのを実感していると、『ふたりできちんと話し合って仲直りしたら、兄貴に京都を案内してもらえば?』という広海さんの言葉をふと思い出した。
フフッと笑い声を漏らす私を見た彼が首を傾げる。
「どうした?」
「広海さんの言う通りになったな、と思って」
「広海の言う通り?」
「はい」