溺愛依存~極上御曹司は住み込み秘書を所望する~
「そうだな……。子育てがひと区切りついた三十年後あたりに、もう一度ふたりでここに来ようか?」
「……っ!」
次々に繰り出された意地悪で甘い言動に翻弄されて言葉を失っている私の前で、彼がクスッと小さく笑った。
「菜々子? 返事は?」
あまりにも唐突で少しわかりづらいプロポーズに困惑したものの、すぐに喜びで胸がいっぱいになった。
けれど、萌さんをひと目見たときに感じた思いが、いつまで経っても心の中に居座り続けている。
こんな不安な思いを抱えたまま、プロポーズを受けるわけにはいかない……。
彼を真っ直ぐ見据えると、覚悟を決めて口を開いた。
「あの、専務? どうして……私なのでしょうか……」
「ん? なにが?」
彼がキョトンと首をかしげる。
「どうして私のことを……好きになって……くれたのでしょうか……」
自分の気持ちを思うように伝えられないもどかしさを感じながら、もう一度尋ねた。
「好きになって“くれた”って……。どうして引け目を感じる必要がある?」
たどたどしく尋ねた私に返ってきたのは、質問に対する答えではなかった。
質問を質問で返されるとは思ってもおらず、動揺せずにはいられない。けれどこのまま、うやむやにはできない。