溺愛依存~極上御曹司は住み込み秘書を所望する~
「あのさ、俺のことは“広海”って、名前で呼んで」
フルコースのメインであるやわらかくてジューシーな仔羊のローストにナイフを入れる私に向かって、彼が唐突に言い出す。
けれど今日初めて会話を交わした彼を、名前で呼ぶのは若干の抵抗がある。
「でも……」
「皆もそう呼んでいるし」
躊躇(ためら)う私の言葉にかぶせるように、彼があっさりと言い放った。
『皆』と言われては反論できなくて、「はい。わかりました」と返事をすると、仔羊のローストを口に運ぶ。すると「こちらでございます」という案内のもと、ひとりの男性が姿を現した。
「遅くなってすまなかった」
個室の空気がピンと張り詰める。
「お疲れさまです」
慌てて席を立つと、急いで頭を下げた。
「かしこまらなくていいから。座って」
「はい。失礼します」
広海さんの隣の席に座った彼に続き、腰を下ろす。
「はじめまして……。では、ないよね? 雨宮菜々子さん」
「……はい」
返事をすると、静かにうなずいた。
私をフルネームで呼んだ彼の名は藤岡真海(まさみ)。私の勤め先であるフジオカ商事の専務取締役を務めている。