溺愛依存~極上御曹司は住み込み秘書を所望する~
現社長の長男である彼は、次期社長になる人物。三十五歳でイケメンなのに結婚していないのは、まだまだ独身貴族を謳歌したいからではないかと、女子社員がトイレで噂しているのを耳にしたことがある。
ホテルのスイートルームで彼から受け取った『フジオカ商事株式会社 専務取締役 藤岡真海』と表記された名刺を、クシャッと丸めてゴミ箱に投げ入れた過去がよみがえる。
今になってコンタクトを取ってきた彼の意図がわからずに困惑していると、黒蝶ネクタイにソムリエエプロンスタイルの男性が個室に現れた。
「お待たせいたしました」
男性がワインボトルのラベルを彼に向ける。説明を受けた彼がうなずくとコルクが抜かれ、グラスにボルドー色のワインが注がれた。
彼はグラスを軽く回して、色合いと香りを確認しながらワインをテイスティングする。こういう高級な場に慣れているのだなと思わせる、その自然な振る舞いを見つめていると彼の視線が私に移動した。
「雨宮さんは、ワインよりマティーニのほうがよかったかな?」
彼の口元がゆるりと上がる。
「いいえ。マティーニよりワインのほうが好きです」
「そう、それはよかった」
意地悪に負けるものかと強気で言い返すと、彼が朗らかに笑った。