溺愛依存~極上御曹司は住み込み秘書を所望する~
「大学時代の友人の披露宴に出席した東京プリマホテルで、俺のグラスにシャンパンを注いでくれたのがキミだったから、とても驚いたよ」
「……っ!」
彼の口から出た『東京プリマホテル』というワードに衝撃を受けて、息を飲む。
「俺はすぐにキミに気づいたのに、キミはちっとも気づいてくれなかったね」
私に視線を向けた彼がワインに口をつけた。
料理が冷めないうちに手際よく提供しなければならないし、ゲストからのドリンクのオーダーにも随時応えなければならないバンケットスタッフの仕事は目が回るほど忙しい。とはいえ、面識のある彼に気づけないとはあまりにも情けなくて、ガクリとうなだれた。
しかし、すぐにある疑問が生じる。
「どうして私のフルネームをご存じなんですか?」
彼に明かしたのは、『菜々子』という名前だけだ。
「別れ際にキミは菜々子と名乗った。そしてホテルで働くキミのネームプレートには雨宮の苗字があった。それだけの情報があれば、キミのことを調べるのは簡単だ」
彼はグラスをテーブルに置くと、興味深く私を見つめる。
私のことを調べたのなら、フジオカ商事の経理部で働いていることも、認識しているはずだ。
今になってコンタクトを取ってきた理由がわかり、顔から血の気が引いた。