溺愛依存~極上御曹司は住み込み秘書を所望する~
3.人事異動は突然に
その辞令は経理部のメンバーにとって、青天の霹靂(へきれき)だったようだ。
雨宮菜々子殿
六月一日付けで秘書室勤務を命ずる。
専務と一緒に暮らすことが決まった翌日、六月一日の金曜日。
「雨宮さん! こんな時期に、しかも今日すぐに異動っておかしくないですか?」
経理部長から辞令通知書を受け取った私に、入社五年目の坂本(さかもと)さんが詰め寄ってくる。
フジオカ商事では、四月と十月人事異動が多い。彼女が言う通り六月という中途半端な時期に辞令が出るのは稀(まれ)だし、内示もないまま当日の朝に異動になるのはどう考えてもおかしい。
しかし今回の秘書室への異動は、就業規則違反をおかした私を解雇しない条件として命じられたもの。
「そ、そうだね」
異動になった経緯を坂本さんに打ち明けるわけにはいかなくて、曖昧に返事をすると自分のデスクに戻り、身の回りの整理に取りかかった。
「雨宮さん。手伝います」
猫のような丸い瞳がチャームポイントの坂本さんは、明るくて素直な性格。でも今は私の突然の異動に戸惑っているようだ。