溺愛依存~極上御曹司は住み込み秘書を所望する~
「ごめんね。あ、そうだ。これ、引き継いでもらってもいいかな?」
大きな瞳に薄っすらと涙を浮かべている坂本さんに、自分が担当していた月次決算業務の資料を手渡す。
「はい。もちろんです」
入社して右も左もわからない新人の坂本さんを、私が手取り足取りして指導した。今ではすっかり頼もしくなった彼女は私の誇りだ。
「坂本さん、今までありがとう。これからもがんばってね」
「こちらこそ、ありがとうございました」
感謝の思いを伝えると、彼女の瞳から大粒の涙がポトリとこぼれ落ちた。
「やだ、泣かないでよ」
「雨宮さんこそ、泣かないでくださいよ」
がんばり屋の坂本さんが見せた涙につられるように、涙腺が緩む。目尻から流れ出た涙を指先で拭っていると、いつの間にか経理部のメンバーに取り囲まれていた。
「皆さん。この度、秘書室に異動することになりました。今までお世話になり、ありがとうございました」
経理部のメンバーに頭を下げる。するとどこからともなく拍手が起こり、主任に「がんばって」と肩を叩かれ励まされた。
忙しい業務をのり切ってきたメンバーとの別れが急に悲しくなり、頬に伝う涙を隠すように何度も頭を下げた。