溺愛依存~極上御曹司は住み込み秘書を所望する~
「室長の財前(ざいぜん)です」
「雨宮菜々子です。よろしくお願いします」
穏やかな笑みをたたえる室長に頭を下げる。
「皆さん、紹介します」
室長の大きな声がオフィスに響くと、黙々と業務をこなしていた秘書室社員の動きが止まり、私に視線が集まった。
「こちらは経理部から異動になった雨宮さんです」
慣れ親しんだ経理部のメンバーの前とは違い、初対面の人しかいない秘書室で挨拶するのはさすがに緊張する。
「本日づけで経理部から異動になりました雨宮菜々子です。秘書業務は経験ありませんが、精いっぱいがんばります。よろしくお願いいたします」
思わず声が震えてしまったものの、挨拶が無事に終わりホッと胸を撫で下ろした。そんな私に対してパラパラと拍手が起こる。
秘書室の女子社員は皆、高級感漂うスーツを上品に着こなしている。それなのに今日の私のスタイルは、就職活動の際に買った黒のリクルートスーツ姿。肩先まである髪は黒ゴムでひとつに束ねているだけ。
地味な自分が華やかな秘書室にいるのは場違いに思えて、気後れせずにはいられなかった。
「では、参りましょう」
「あ、はい」
私を見つめる秘書室の女子社員の視線を痛く感じながら、オフィスを移動し始めた室長を急いで追う。