溺愛依存~極上御曹司は住み込み秘書を所望する~

私の言葉遣いをすぐさま正す室長を見たら、すでに秘書教育は始まっているのだと気づいた。

「はい。承知いたしました」

かしこまる私を見た室長が満足げにうなずく。

室長は癒しの源でもなんでもなかったことに落胆しながら居心地の悪さを感じていると、専務室のある十四階にエレベーターが到着した。

ついさきほど、マナーを指導されたばかり。室長より先に降りていいものか躊躇ってしまう。

そんな私の心情を見透かすように、室長がクスリと笑った。

「マナーは次回から実践していただければいいですよ」

「はい。ありがとうございます」

エレベーターの乗り降りで、こんなに緊張するのは初めてだ。

そう思いながら私の後にエレベーターを降りた彼について行った。

“専務室”のプレートが掲(かか)げられた木目調のドアを室長がノックする。

「はい」

返事があってから数秒後、ドアがカチャリと開いた。

「雨宮さんをお連れしました」

「ありがとうございます」

「では、私はこれで失礼します」

広海さんと会話を交わして頭を下げた室長が、踵(きびす)を返した。

もうこれで室長の指導を受けずに済むと思うと同時に、専務の専属秘書としての業務が本格的に始まってしまうという心細さに見舞われる。そんな複雑な思いが込み上げてきたとき、廊下を進んでいた室長の足が不意に止まった。

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