溺愛依存~極上御曹司は住み込み秘書を所望する~
『俺だ』
「その声は専務ですね?」
『そうだ』
自分の名前を名乗らない彼にあきれたものの、どうして私の番号を知っているのかが気になる。
でも彼は私がダブルワークをしていたことも、親が旅館を営んでいることもひと通り調べ上げたくらいだ。私の個人情報を把握していても、なにもおかしくないと納得した。
「ご用件はなんでしょう?」
私に連絡してくる理由がわからずに尋ねると、予想外の答えが返ってきた。
『今からそっちに行くから、そのつもりで』
「えっ?」
私を無視したまま、一方的に通話が切れてしまう。
『今からそっちに行く』と言われても、彼が今どこにいて、ここまでどれくらいの時間がかかるのかさっぱりわからない。
「もうっ! 自分勝手なんだから」
苛立ちを声にしてみても、気持ちは晴れなかった。
今日は土曜日で仕事は休み。それなのに私のマンションまで来るのはどうしてなんだろう……。
モヤモヤした気分のままクローゼットから水色のブラウスと黒のテーパードパンツを取り出し、急いで着替えを済ませた。
すると再びスマホが音を立てた。画面には前回と同じ番号が表示される。
「もしもし」
『俺だ。下にいるから降りて来てくれないか?』
「えっ? あ、はい。わかりました」
一度目の通話から五分も経っていない。それなのにもう着いたと言う彼の言葉に驚き、たどたどしく返事をすると、すぐに通話が切れた。
相変わらず自分の名前は名乗らないし、私の都合も気にしない。感じの悪い彼に対する不満を募らせながらバッグを手に取ると、急いで玄関を出た。