溺愛依存~極上御曹司は住み込み秘書を所望する~
マンションのエントランスから外に出ると、路肩に止めた車にもたれかかるように佇む彼の姿があった。
「急に来て悪かったね」
「いいえ」
私に気がついた彼は姿勢を正し、白い歯を見せて爽やかに微笑む。
紺色のテーラードジャケットに白いパンツスタイルの彼からは、スマホで会話を交わしたときのような嫌な雰囲気は感じられず、苛立ちはすぐに消え去った。
「どうぞ」
ラフな格好がよく似合っている彼が、私の腰にさりげなく腕を回す。
「ありがとうございます」
スマートにドアを開けてくれたエスコート慣れしている彼にお礼を言うと、赤い車の助手席に乗り込んだ。
「専務? これからどちらに?」
エスコートされるがままに車に乗り込んだものの、私を訪ねてきた理由がわからず、運転席に回った彼に行き先を尋ねた。
「雨宮さんには秘書として相応しい格好をしてもらう」
彼の言葉の意味を瞬時に悟り、ハッと息を飲んだ。
今日の私のスタイルは黒のテーパードパンツに水色のブラウス姿だし、家にあるのは就職活動のときに買った黒と濃紺のリクルートスーツが二着だけ。
経理部で業務をこなすだけならば別に問題ない今日の格好も、お客様と会う機会が多い秘書としては地味で相応しくない。
だからといって、新しいスーツをポンと買えるほどのお金は持ち合わせていない。