溺愛依存~極上御曹司は住み込み秘書を所望する~
5.同居初日は慌ただしく
翌日の日曜日。午前九時から引っ越しが始まる。
テキパキと荷物をまとめる引っ越しスタッフの動きは無駄がなくて、次々に部屋が片づいていく。
引っ越しの素人である私が手を出すわけにいかず、リビングの片隅でその様子をボンヤリと眺めていると、スタッフに紛れて広海さんが姿を見せた。
「どうしてここに?」
連絡もなしに現れた広海さんに驚いてしまう。でも彼は目を見張る私のことなど気にも留めない。
「兄貴にアンタを迎えに行ってほしいって頼まれた」
広海さんはスマホをいじりながら、無愛想に答える。
引っ越し先である専務のマンションの住所はスマホに登録したけれど、それだけでは不安を感じていた。
「ありがとうございます」
「ん……。まあ、気にしなくていいから」
心強い味方の登場に感謝して頭を下げると、彼がリビングのフローリングに直に座った。
「アンタさ……。オフのときは俺に敬語使わなくていいから」
私を見上げた彼がボソッと言う。
知り合って間もない彼のことを『広海さん』と名前で呼ぶのも気後れしたくらいだ。敬語を使わなくていいと言われても、どうしたらいいのかわからない。
「でも……」
「俺、アンタより年下だしさ」
戸惑う私の言葉を遮るように、彼が言う。
「えっ? そうなんですか?」
「まあね」
噂好きの女子社員の話を小耳に挟んだことがあるため、専務の年齢は認識していた。けれど広海さんが年下だというのは初耳だ。