溺愛依存~極上御曹司は住み込み秘書を所望する~
「あの、広海さん。スーパーに寄ってもらってもいい?」
「スーパー?」
「うん。食材を買いたいの」
就業規則を破った私を解雇しない条件として、家事全般を担うという約束を専務と交わしている。掃除や洗濯は明日に回すとしても、夕食と明日の朝食の食材は揃えておきたい。
「引っ越し当日に家事なんかしなくていいよ。今日の夜は外食でいいだろ?」
ハンドルを握る彼の唇が不満そうに尖る。
きっとスーパーに寄るのが面倒なのだろう。けれど引っ越し初日から約束を違(たが)えては信用にかかわる。
「そういうわけにはいかないよ」
首を左右に振ると、フロントガラスの先に見えた信号が黄色から赤に変わった。
「アンタって、意外と真面目なんだな」
「そう? 普通だと思うけど……」
ただ私は専務との約束を守ろうとしているだけ。真面目と言われるのは少し違うような気がして言葉に詰まってしまった。するとブレーキをかけた彼の視線が、私に移動する。
「でも俺、真面目な人、好きだよ」
目を真っ直ぐ見つめたまま『好き』と言われたら、心穏やかではいられない。
「そ、そうなんだ」
「ああ」
勝手に動揺してしまったことを恥ずかしく思いながら視線を逸らすと、信号が青に変わった。