溺愛依存~極上御曹司は住み込み秘書を所望する~
「ただいま戻りました」
「おかえり。……それは?」
買い物を済ませてマンションに帰った私たちを、専務が笑顔で出迎えてくれた。しかし、ブルーのドレスが入ったショッピングバッグに気がついた彼の眉間にシワが寄る。
「これは……」
「俺がプレゼントした」
ふたりでドレスショップに行ったことを説明しようとすると、広海さんが口を挟んできた。
専務の視線が広海さんへ移動する。
「どうして?」
「兄貴だってスーツを買ってあげただろ?」
「あれは仕事で着てもらうためだ」
ふたりの間に、ピリピリした空気が漂い始める。
「このドレスだってパーティーに出席するときに役立つだろ? だいたい、ひとりで抜け駆けしようとするなんてズルいんだよ」
「抜け駆けって……。変なことを言うんじゃない」
「だって、本当のことだろ?」
声こそ荒らげないものの、ふたりが言い争う様子は迫力があり、萎縮せずにはいられなかった。
彼らが言う『抜け駆け』という言葉の意味はよくわからないけれど、いさかいの原因はあのスーツとドレスにあることだけはたしかだ。
これ以上、ふたりが責め合う姿は見たくない……。
「ご、ごめんなさい!」
ふたりの間に慌てて割り入り、頭を下げた。
「いや、違うんだ。雨宮さんはなにも悪くない」
「……そう。アンタは悪くない」
顔を上げると、ふたりの眉が困ったように下がっているのが見えた。
「あ、あのっ! すぐに夕食にしますね」
感情的になってしまうのは、お腹が空いているからだ。
場を和ませたい一心でわざと明るく振舞うと、広海さんがスーパーの袋を手に取った。
「手伝う」
「あ、ありがとう」
無愛想な広海さんが手伝うと言ってくれたことに驚きつつ、キッチンに向かう彼を追った。