溺愛依存~極上御曹司は住み込み秘書を所望する~
「あの、専務? 明日は何時に起きますか?」
リビングでノートパソコンに向き合っている彼に尋ねる。
「七時には起きるつもりだ」
「わかりました。では、おやすみなさい」
専務が七時に起きるのなら、私は六時三十分に起きればいいかな……。
明日の朝食のことを考えつつペコリと頭を下げると、リビングをあとにしようとした。しかし、すぐに呼び止められる。
「雨宮さん、ちょっと待って」
「はい。なんでしょう」
ソファから立ち上がった彼が近づいてきた。
ついさっきは、広海さんが言い残していった言葉など気にもならなかった。それなのに今になって『兄貴って手が早い』という言葉が、頭の中でグルグルと回り始めてしまった。
実際、彼の手が早いことを私は知っている。
マティーニを飲んでいただけなのに、巧みな言葉に惑わされてスイートルームにノコノコついて行ってしまったし、慣れた手つきでブラジャーのホックをはずされたし……。
なにもなかったとはいえ、あの一夜を忘れられずに身がまえていると、彼の手が目の前に差し出された。
「これがないと困ると思って」
「あ、そうですね。失くさないように気をつけます」
彼の大きな手のひらにのっていたカードキーを受け取る。
「俺の帰宅時間はまちまちだから、帰りを待たなくていい。先に寝ててくれてかまわないから」
「はい。承知しました」
彼の気遣いをうれしく思うと同時に、広海さんのからかいを真に受けてしまったことを申し訳なく思った。
「雨宮さん、おやすみ」
「おやすみなさい」
会社では口にすることがない『おやすみ』というワードを気恥ずかしく思いながらリビングをあとにした。