溺愛依存~極上御曹司は住み込み秘書を所望する~
「専務。おはようございます」
「おはよう」
ふたりが慣れた様子で挨拶を交わす。
運転手つきの社用車で出勤する彼をうらやましく思っていると、私の腰に大きな手が回った。
「雨宮さんもどうぞ」
彼に声をかけられる。しかし、ただの社員である私が、専務と同じ車で出勤するのは恐れ多い。
「いいえっ! 遠慮します」
「どうせ行く先は同じだ。遠慮せずに乗って行けばいい」
速攻で断ったものの、彼はすぐには納得してくれなかった。
「ありがとうございます。でも交通費はきちんと支給されますから」
「雨宮さんは真面目だな」
「そんなことないです」
迎えの車に乗ることを再びやんわりと断ると、彼がクスッと笑う。
「そうか、わかった。無理強いはよくないな」
「はい。ありがとうございます」
しつこく迫られずに済み、ホッと胸を撫で下ろす。
「じゃあ、また後で」
「はい。いってらっしゃいませ」
後部座席のドアがパタンと閉まり、社用車が静かに走り出した。
会社に行けば、専務またと会う。それなのに出勤する彼を見送るのは、なんだか変な気分……。
そんなことを思いながら朝の清々しい空気を吸い込むと、最寄り駅である麻布十番駅に向かった。