溺愛依存~極上御曹司は住み込み秘書を所望する~
あとひとつだけ残っていたから揚げも、すべて完食した広海さんがご機嫌な様子を見せる。けれど専務は渋い表情を浮かべたまま、目も合わせようともしない。
「広海、食べ終わったならもう帰れ」
ネクタイの結び目を指で緩め、リビングに向かった彼が無愛想に言い放った。
苛立ちを隠さない専務に戸惑ってしまう。不安げにふたりの様子をうかがっていると、広海さんが立ち上がった。
「ごちそうさま」
「あ、はい」
私に声をかけてダイニングから出て行く広海さんを追い駆ける。
機嫌が悪そうな専務とふたりきりになるのは気まずくて、帰ってほしくない気持ちが大きく膨らんだ。でも、なんと言って引き留めたらいいのか思いつかない。
自分の気持ちをうまく伝えられないことをもどかしく感じていると、すぐに玄関ホールに着いてしまった。
「大丈夫。俺が帰ればすぐに機嫌直るから」
「そう、なの?」
半信半疑で聞き返すと、彼がコクリとうなずいた。
「兄貴は俺とアンタがふたりきりで食事していたのが、気に食わなかっただけだし」
「……?」
広海さんの言葉を信じたい気持ちはあるけれど、冷静沈着な専務がそんな些細なことで不機嫌になるとは思えない。
もしかしたら、専務もから揚げが食べたかったとか?
「じゃあな」
「あ、うん。気をつけて」
ご機嫌斜めになってしまった理由をアレコレと考えていると、広海さんが玄関から出て行った。