溺愛依存~極上御曹司は住み込み秘書を所望する~
「今日は仕事のことも家事のことも忘れよう」
「……」
息抜きしたいという彼のことを『専務』と呼ぶのはたしかに野暮かもしれない。けれど『専務』以外の呼び名など、すぐには思いつかない。
言葉に詰まっていると、信号が赤に変わった。
「試しに俺の名前、呼んでみて」
ブレーキをかけた彼が、私に向かってにこやかに微笑む。彼の笑顔は相変わらずかっこいい。でも、その二重の瞳は少しも笑っていないから怖い。
「……ふ、藤岡さん」
「いや、そうじゃないだろ……」
震える声で彼の苗字を口にしたものの、すぐに指摘が入る。
彼が冷静なのはいつものことだけど、今日はSが見え隠れしているような……。
そんなことを考えながら、今度は彼の名前を口にした。
「ま、真海さん」
満足げな笑みを浮かべた彼の目が、緩やかなカーブを描く。
彼が喜んでくれると、私もうれしい。
心が満たされていくのを実感していると、彼の整った顔が間近に迫っていることに気がついた。
「なに? 菜々子?」
彼が耳元で、私の名前を甘くささやく。
「……っ!」
不意を突かれて驚いる私を見た彼が、クスッと笑う様子を見て思う。
やっぱり今日の彼は意地悪だ。