溺愛依存~極上御曹司は住み込み秘書を所望する~
一時間ほど車を走らせ、鎌倉に到着した。
街中を走る江ノ電を物珍しく見つめ、雑貨店や土産店を見て回り、そして今は古民家をリノベーションしたレストランで、鎌倉野菜のチーズフォンデュに舌鼓を打っている。
年月が経ち、独特の色合いを帯びた木材を活かした店内は、どこか懐かしい雰囲気が漂って居心地がいい。
「次は明月院に行こう」
あじさい寺として有名な明月院は知っていても、訪れたことは一度もない。
「はい。楽しみですね」
「ああ。でも天気が心配だな」
心配げな表情を浮かべた彼が、ガラス戸越しに外を見つめた。
まだ梅雨が明けていない空には、灰色の低い雲が広がっている。
「大丈夫ですよ。私、折り畳み傘を持ってきましたから」
バッグを手元に引き寄せると、傘を取り出して彼に見せた。
「そうか。それは心強いな」
用意周到な私を見た彼が、朗らかに笑う。
鎌倉散策は楽しいし、食事もおいしい。でも、彼の笑顔が見られることが一番うれしい……。
幸せな気分に浸っていると、バッグの中のスマホがブルブルと震え出した。
「すみません」
スマホを確認してみると、たくさんの通知が表示されていた。
【今どこ?】
【もしかして兄貴と一緒?】
【無視すんなよ】
観光に夢中で、広海さんからのメッセージがひっきりなしに届いていることに、ちっとも気づかなかった……。