溺愛依存~極上御曹司は住み込み秘書を所望する~
ランチを終えると、明月院に向かう。
参道の緩やかな階段の両脇に、濃い青色のあじさいが咲き乱れる様子は圧巻だ。
「綺麗ですね」
「ああ、そうだな」
ふたりで会話を交わしながら幻想的な光景が広がる境内を進んでいると、すれ違った人と肩がぶつかってしまった。
その衝撃で体がふらつく。
「ごめんなさい」
よろめきながら振り返って謝ったものの、もう誰とぶつかってしまったのかわからなかった。
明月院は、あじさいの名所。この時期は多くの観光客でごった返している。
「大丈夫か?」
「はい。大丈夫です」
視線をもとに戻すとバランスを崩した私の体を、彼が支えてくれていることに気がついた。
「あっ、すみません」
彼の整った顔が間近に迫っていることに驚き、慌てて謝る。けれど腰に添えられたままの手は一ミリも動かない。
「すごい人だな」
「そ、そうですね」
普段となにも変わらない様子で話す彼とは違い、密着している体が気になって返事がぎこちなくなってしまった。
ふらついた私を助けてくれた彼に、私から手を離してくれとは言いづらい。
この先どうしたらいいのか頭を悩ませていると、彼の手がスッと離れて行った。
もうこれで、彼のことを変に意識しなくて済む。
気持ちが徐々に落ち着いてきたのを実感していると、不意に手をキュッと握られてしまった。