溺愛依存~極上御曹司は住み込み秘書を所望する~
「俺と手を繋ぐのは嫌?」
「嫌じゃないですけど……」
恋人でもない彼と手を繋ぐのは恥ずかしい。でも、ちっとも嫌じゃない。
「だったら、このままで」
「……はい」
彼の手に力がこもった。
これじゃあ、本当のデートみたいだ……。
ドキドキと高ぶる鼓動がうるさくて、あじさいに集中できない。
完全に振り回されていると自覚しているのに、彼の大きな手の温もりを心地いいと思ってしまった。
明月院でのあじさい鑑賞を終えると、北鎌倉の裏路地をふたりで歩く。
「休憩がてら、甘い物でも食べるか?」
「はい!」
元気よく返事をした私を見た彼が、クスッと笑う。
わらび餅にあんみつ、くずきりに白玉ぜんざい。古都鎌倉には和スイーツがよく似合う。
甘味処を探して視線をさまよわせていると、冷たい滴(しずく)が鼻先にポトリとあたった。
「降ってきたな」
「そうですね。でも安心してください」
恨めしそうに空を見上げる彼の前で、バッグから折り畳み傘を取り出す。そして広げた傘を彼の頭上に掲げた。
けれど私たちの身長差は二十三センチ。どうしても彼の頭に傘の骨があたってしまう。
「俺が持つよ」
「ありがとうございます」
目を細めた彼が傘の柄を持つと、窮屈そうだった背中がスッと伸びた。