溺愛依存~極上御曹司は住み込み秘書を所望する~
私のことを簡単に説明した専務の手が、腰にゆっくりと回った。
初めて出席した創立記念パーティーで、これから初めての挨拶をすると考えただけで、背中に嫌な汗が伝う。しかしオドオドしていたら、専務の顔に泥を塗ることになってしまう。
それだけは絶対に避けなければならないと自分に言い聞かして背筋を伸ばし、専務にエスコートされながら旭川会長と奥様の前に進み出た。
「はじめまして。雨宮菜々子と申します。今後ともよろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしく頼むよ。菜々子さん」
「はい。ありがとうございます」
少し声が震えてしまったものの無事に挨拶を終えることができて安堵していると、ヤマギシフーズの創立六十周年を祝うパーティーが始まるアナウンスが会場に流れた。
前方のステージにヤマギシフーズの社長と思われる男性が姿を現す。
「雨宮さん」
「はい」
「ありがとう」
登壇した社長に拍手を送った専務が私の耳元で優しくささやく。首を左右に振って「いいえ」と答えると、彼の口元が緩やかに上がった。
パーティーは始まったばかりで、私はまだ旭川会長にしか挨拶していない。それなのに早くもお礼を口にする彼はやはり真面目だと思った。