溺愛依存~極上御曹司は住み込み秘書を所望する~
スピーチを終えたヤマギシフーズの社長に挨拶を終えた専務とともに、会場の一角に並んでいる料理を取りに向かう。
今日のパーティーは立食ビュッフェスタイル。種類豊富な料理を目の前にして、まずはどれから食べようか悩んでいると、彼が数種類のオードブルをサッと盛りつけて私にお皿を差し出してきた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
お皿を受け取ると、彼が空のお皿に手際よく同じオードブルを盛りつける。
「ここのホテルの料理はどれもおいしいけれど、とくにこのシェーブルチーズと生ハムのピンチョスがおすすめだ」
「シェー?」
聞き慣れないチーズの名前を聞き、首をかしげる。
「シェーブルチーズ。ヤギのミルクで作ったチーズのことだ」
「へえ。そうなんですね」
高級ホテルの料理を食べ慣れている彼の説明に感心してしまう。
「うん。おいしい」
瞳を細めて料理を食べる彼を見ていたら無性にお腹が空いてきて、すぐにピンチョスを頬張った。
普段食べ慣れているチーズよりも少しクセがあるものの、コクがあって濃厚な味わいが生ハムのまろやかな塩気ととても合う。
「んっ! おいしいです」
「それはよかった」
シャンパンを飲みながら高級ホテルの料理を彼と一緒に味わうひとときは、とても楽しい。でも、その時間は長くは続かなかった。
「藤岡さん、こんばんは」
恰幅のいい男性が専務に声をかけてくる。
「田村(たむら)社長。お久しぶりです」
ふたりが握手を交わす。