溺愛依存~極上御曹司は住み込み秘書を所望する~
専務が『田村社長』と呼んだのは、外食チェーン店の経営を手がける株式会社タムラヤの社長のことだろう。
ふたりが談笑するなか、頭に叩き込んだ社内データを必死に思い返していると、田村社長の後ろにいる女の子に気づいた。
たしか田村社長にはお嬢さんがいたはず……。
「こんばんは。雨宮菜々子です」
「……田村みのりです」
退屈そうにしている女の子に声をかけると、小さい声で返事があった。
やはり彼女は、田村社長のお嬢さんで間違いない。
「みのりちゃん、いくつ?」
「七歳」
言葉は短いものの質問すれば、きちんと答えが返ってくる。
「小学校一年生かな?」
「うん。そう」
ツインテールがよく似合うみのりちゃんはとてもかわいい。
学校のことなどを聞きながらみのりちゃんと話していると、飲み物が注がれたグラスを持った給仕係が近くを通った。
オレンジジュースを受け取り、みのりちゃんと一緒に飲む。すると田村社長が慌てた様子でこちらに向かってくるのが見えた。
「娘の相手をしていただいてありがとうございました」
「いいえ。とても楽しかったです」
頭を下げると、オレンジジュースを飲み終えたみのりちゃんが田村社長のもとに駆け出した。
「お姉ちゃん、バイバイ」
田村社長の手を握ったみのりちゃんが、私に小さく手を振る。
この先、みのりちゃんと会う機会はないのかもしれない。けれど、また会える期待を込めて「みのりちゃん。またね」と手を振り返した。