【極上旦那様シリーズ】今すぐお前が欲しい~俺様御曹司と甘く危険な政略結婚~
もぞもぞ動いてなんとか上体を起こし、首を左右に振る。
その時、シャッターが勢いよく開いて、誰かが入って来た。
「綾香ちゃん!」
「鈴木、大丈夫か!」
藤原と剣持さんだ。
ふたりの登場に秋人さんが「誰だ!」と叫んで振り返る。
その隙をついて突進するようにシャッターに向うと、藤原と剣持さんは秋人の部下達を相手にしていた。
「おい、待て!」
秋人さんが慌てて私を追ってくる。
捕まるわけにはいかない。
彼に犯されるくらいなら……。
迷わず目の前の海に飛び込んだ。
水が冷たいとか、泳げないとか考えなかった。
ただ秋人さんから逃げる。
それしか頭になかった。
バシャンという水音と共に「綾香!」と氷堂の声が聞こえたような気がする。
だが、もう確認する術はない。
真っ暗で冷たくて……。
口の中に水が入って来て、呼吸しようとすれば、自分の息が気泡になり、身体が真っ直ぐ下に沈んでいく。
空気がなくて苦しいと感じると同時に氷堂の顔が脳裏に浮かんだ。
また、高校の時みたいに彼に『カナヅチなのに海に飛び込むなんて、馬鹿か!』と怒られるかもしれない。
いいえ、それはないわ。
もう生きて……彼には……会えな……い――――。
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