【極上旦那様シリーズ】今すぐお前が欲しい~俺様御曹司と甘く危険な政略結婚~
服を着ていては水着と違って上手く下に潜れず、焦りを感じずにはいられなかった。
どこにいる、綾香?
ほぼ暗闇に近いところで彼女を必死に探すと、手がなにかに触れた。
……布のような感触。
きっと綾香だ。
強く希望を持って手を伸ばせば、今度は彼女の腕を掴むことに成功した。
そのまましっかりと両手で彼女を抱え込み、浮上する。
水面に顔を出せば、パトカーのサイレンの音が聞こえて、藤原が俺を見つけて叫んだ。
「氷堂ー、大丈夫か!」
すぐには声が出ず、彼に向かって右手を上げる。
どうやら二十メートル程岸から流されてしまったらしい。
綾香は意識を失っているのか、「綾香」とその名を呼んでも応えない。
すぐに岸に上げなければ……。
綾香を抱きかかえたまま岸に向かって泳ぎ、岸壁に辿り着くと、彼女の身体を押し上げて声を張り上げた。
「藤原、綾香を!」
「わかった」
藤原が手を差し出して彼女を引き上げ、俺もすぐに水面から上がった。
「綾香ちゃん! 綾香ちゃん!」
綾香の腕に巻かれていたテープを藤原が取り去り、その頬を叩いて彼女の名を呼ぶが反応しない。
その時、最悪の事態が頭を過って恐怖に襲われた。
「綾香」
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