【極上旦那様シリーズ】今すぐお前が欲しい~俺様御曹司と甘く危険な政略結婚~
俺も呼びかけつつ、彼女に心臓マッサージと人工呼吸を行った。
綾香が海に沈んでいた時間は一分もなかったはず。
だが、腕を縛られていた分、身動き取れずに深く沈み、海水をたくさん飲み込んでしまった可能性がある。
「戻って来い、綾香!」
俺の横で藤原が救急車を呼ぶと、剣持さんも俺達のところにやって来て、綾香の顔を心配そうに覗き込む。
「意識がないのか?」
彼の問いに答える余裕はなかった。
俺は一心不乱に綾香の心臓マッサージを続け、彼女の口に息を吹き込む。
すると、「ゲホッゲホッ」と綾香が激しく咳き込んで、水を吐いた。
その様子を見て少し安堵する。
「綾香?」
彼女の頬にかかった髪をかき上げ、その顔を見つめた。
綾香はゆっくりと目を開けるが、すぐには焦点が合わず、彼女の名を呼んで話しかける。
「綾香、俺だよ、氷堂蒼士。わかる?」
虚ろなその目が徐々に光を取り戻し、俺を見た。
「ひょ……う……どう?」
名前を呼び捨てにされてる……とか、そういうことはどうでもよかった。
彼女が生きているだけでいい。
俺の名前を呼んでくれて胸が一杯になって……。
「絢香……。そう、氷堂だ」
その華奢な身体を掴んで自分の胸に抱き締める。
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