【極上旦那様シリーズ】今すぐお前が欲しい~俺様御曹司と甘く危険な政略結婚~
2、全てを失って
「そうか。蒼士君は今チベットにいるのか?」
父はワインを口に運びながら、氷堂のことに触れた。
美食家のお父さまは、少しぽっちゃりしていて背は百七十センチくらい。
会社では厳しい社長のようだけど、娘の私の前ではいつもニコニコしている優しい父。
卒業式から四日後の夜、私は自宅で父と夕食を食べている。
母は五年前にすい臓ガンで亡くなって、ふたりだけの食事。
母を失った頃は悲しくて私も父も毎日泣いて過ごしていたけど、今はもう寂しさは感じない。
うちで古くから働いてくれている人達が私達親子を支えてくれるし、父も私を大事にしてくれる。
「ええ。今頃山を登っているんじゃないかしら」
そのままチベットに移住すればいいのに。
この場にいない氷堂の顔が浮かび、空を睨みつけた。
彼は【無事にチベットに着いたよ。綾香も気をつけて南仏に行っておいで】と旅行先からメールを送って来た。
無視しようかとも思ったけど、【そちらで清い心になるよう修行してください。帰って来なくていいですわ】と刺々しい文面のメールを返した私。
もう私が彼をどう思っているかなんて明らかなのだから、まどろっこしい言い方なんてしない。
< 18 / 214 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop