【極上旦那様シリーズ】今すぐお前が欲しい～俺様御曹司と甘く危険な政略結婚～

「お父さん、元気になって良かったよ。俺が病院に駆けつけた時は、生死をさまよっていて、食事も出来る状態じゃなかったからね」
彼はチベットの卒業旅行も途中で切り上げて私達親子のために日本に帰って来てくれた。
私だけではなく、父のことも守ってくれて……。
蒼士はなんて優しい人なのだろう。
「その時私がここに来ていたら、失神していたかもしれませんわ」
危篤状態の家族なんてもう見たくない。
母が亡くなる前も、弱っていく母を正視することができなかった。
「今はその時の状態に比べたらかなり回復してる。これから綾香のお父さんはもっとよくなるから。俺が保証する」
穏やかな声でそう言って彼が私の手を引く。
廊下をしばらく歩いていると、ある病室の前に三十歳くらいの紺のスーツ姿の背の高い男性が立っていた。
蒼士も背が高いけど、その男性はさらに背が高い。
この人……どこかで見かけたような。
どこでだったかしら？
ジーッとその男性を見ていたら、蒼士が私に目を向けた。
「彼は坂崎悠人。綾香のお父さんを助けたのは彼だよ」
坂崎……坂崎……。
「あっ、シェフの？」