【極上旦那様シリーズ】今すぐお前が欲しい~俺様御曹司と甘く危険な政略結婚~
いないのを知っているのに、善人の振りをして聞いてくるところが質が悪い。
『……いませんわ』
きっと彼はこの台詞を私の口から言わせたかったのだろう。
悔しくて強く唇を結んだ。
同じ大学にいるのだから、嘘をついてもバレてしまう。
『俺だって花山院さんには幸せになって欲しいからね。君に恋人が出来たら婚約を破棄してあげるよ、あ・や・か』
氷堂が私の耳元で囁き、全身鳥肌が立った。
彼にはわかっているに違いない。
自分と婚約しているのに、私に恋人が出来るわけがないと。
婚約を破棄するには、家が没落するか、私が不治の病にでもならない限り無理だろう。
氷堂にとっては自分の結婚もビジネスのひとつ。
小さい頃から英才教育を受けてきた彼は、大学生になってからは会社の経営にも携わっているらしい。
氷堂家のために何の躊躇いもなく愛のない結婚をしようとする彼。
甘いマスクの見た目に反して非情な男なのです。
「ありがとうございます。氷堂さまもその濃紺のスーツ、とてもよくお似合いですわ」
婚約者をあえて名字で呼ぶのは私のささやかな抵抗。
フフッと笑って褒めれば、氷堂の親友である藤原秀一が穏やかな顔で微笑んだ。
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