【極上旦那様シリーズ】今すぐお前が欲しい～俺様御曹司と甘く危険な政略結婚～

「……疲れたわ」
全身の筋肉がカチカチになっているような気がする。
リラクゼーションサロンに行ってマッサージを受けたい気分だ。
だが、今はもう動きたくない。
近くにあったレザーのソファにドサッと腰を下ろした。
部屋の中が暗いせいか心が落ち着く。
日中はずっと仕事や氷堂のことがあって、父のことを考えずにいられた。
でも、夜になると、どうしてもあの火事の夜のことを思い出す。
赤黒い炎で焼かれた私の家。
あの炎も、その熱さも、まだ身体が覚えている。
それに、足の火傷がまだズキズキ痛むのだ。
父は死ぬ時怖かったに違いない。
想像も出来ないほど苦しんで死んでいったと思う。
だが、やはり涙は出ないし、悲しいという感情がわいてこない。
母が死んで……父も死んで……私はひとりぼっちになってしまった。
もう私を心から愛してくれる人はいない。
みんな……私の前からいなくなる。
そう考えると、ひとりで生きていくことが虚しく思えた。
心の中は空っぽ。
「私も……消えてしまいたい」
虚ろな目で呟く私を、暗い闇が深く包み込んだ。

☆

「……香、絢香、起きて」
氷堂の声がどこか遠くで聞こえる。