君へのLOVE&HATE
「香椎くん、昨日は送ってくれて、ありがとう。途中でごめんね、なんか」


放課後、いつものように
図書室で隣に立って本を取り出している彼に、ごめんなさいと謝る。


「何が?何も悪いことしてないよ、佐々木さんは。」
「うん」

何事もなかったように彼は微笑む。

そしてすぐに、一瞬、真顔になり・・・

「あの人・・」
「えっ」
「お姉さんの婚約者とかいう人・・・」

ドキ・・・

「えっ!な、何?」
「俺のこと、すごい睨んでた。」

くちをとがらせて言う彼にすこしほほを緩める。
いつも表情を崩さない彼なのに
こんな顔をするなんてすこし驚く。



「あー、私あんまり、男の人の話とか、恋愛の話とかしないから、きっと男の人といるっていうだけで、心配されるんだと思う。お姉ちゃんに心配されているから、きっとそういうのもあるんじゃない?」

「ひっでーな、俺、悪い男に見られたのかな」
クスクスと、彼は自嘲気味に笑う。

「あっ、いや、香椎くんのことをそんなふうに思っていないけど・・ごめん。」

佐々木さんが謝ることじゃないでしょ..とつぶやいて彼は作業に戻った。

「う、うん。」

「あの人・・・」
「えっ」

本を段ボールに入れながら彼は話はじめた。

「佐々木さん、あの人のこと好きなの?」

低く掠れた声に振り向くと私のほうを見ながら彼は私の目をまっすぐみつめていた。
真剣なまなざしで・・。

「・・・・お姉ちゃんの婚約者だから、お兄ちゃんみたいなものかな。」
「そうじゃないでしょ・・。そういう好きじゃないよね」

・・彼に昨日の事情を見られているだけに、はっきりいわれるとさすがに痛すぎる。
彼の視線が怖くて目をそらす。

「えっ、何言ってんの~!!違う!違う、、何もないよ。・・・あの人はおねいちゃんの」

軽く笑い飛ばしながら否定する・・はずだった。

和樹くんは
おねいちゃんの婚約者で
おねいちゃんのもの、、。



「違うの?ほんとに?泣いてるよ?」

そういった彼の真摯なまさざしに私は自分のおさえていた感情が急激に戻ってくるのを感じる。

押さえていた感情の蓋がとけて一気に流れてくる。


「・・・・・」
彼は指で私の頬を伝う涙を拭う。

いつのまにか、泣いていた。
泣いていたことに気が付かなった・・。

泣き顔を見られるのが恥ずかしくてうつむいていると・・

そんなに・・・と頭の上から彼のささやき声が聞こえて・・
「泣くほど好きなの?」

そのままぎゅっと抱きしめられた。
細身だと思っていたけれど両腕を腰にぐるっと回されると
引き締められたからだに無駄のない体型だった。

「っ・・・」
彼の抱きしめる力がいっそう強くなる。

「ごめん。・・・あの人を見る昨日の佐々木さんがとても刹那そうだったから。」

「・・・・・」

彼には見透かされていたんだ・・。
私の和樹くんへの思い・・
まだ私が和樹くんを忘れられないこと・・
そして私がまだ和樹くんを好きなこと・・・。

「香椎くん・・ありがとう。もう大丈夫。」

彼の腕のなかから離れようとしたけれど
彼はさらに力を強める。

「か・・香椎くん?」

「…佐々木さん・・・俺を・・・・」




彼はまっすぐなまなざしで私を見てこう・・つぶやいた。

この日から
私と穂積の関係が始まった・・。


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