可愛い女性の作られ方
「んー?
裄が若干、長い。
ウェストも緩いけど……まあベルトで締めれば何とかなるだろ。
どうだ?」

「どうだっていわれても……。
先輩はそういうのでも、着こなしちゃうんですね……」

「……どういう意味だ?」
 
洗面所から出ると、ため息混じりの加久田の言葉が待っていた。

「それ、俺が持ってるなかで、一番細身のスーツなんです。
それでも先輩細いから……。
まあ、それでよければお貸ししますよ」

「……加久田だって、十分細いだろ」

「……俺は一応、男なんで。
……あ、失礼しました」
 
睨み付けると、失言、とばかりに謝ってきた。

確かに加久田は男で、私は女だ。
身長に差はなくても、どうしても体格差は出てしまう。

「まあいい。
これ、借りてくな」

「わかりました。
ネクタイはこの辺りでどうですか?」

「ああ、任せる。
おまえ、センスいいから」

……そう。
加久田はいつも、いい感じにスーツを着こなしている。

「そうですか?
というか先輩、結べますか?」

「莫迦にするな。
高校はネクタイだった」

「ならいいです。
あ、シャツはもしあれだったら、白シャツ買ってください。
千円ぐらいので十分ですから」

「わかった」

「あと、靴はどうするんですか?」

「ああ。
なんか知らんが、おあつらえ向きの靴が一足、げた箱の中で眠ってた。
……いつ買ったんだろうな?
あの靴?」

「知りませんよ。
まあ、ならよかったです」
 
スーツも決まり、加久田とふたりでワッフルを食べる。
会話は美咲ちゃんのこと。
加久田のことをなめきっているので、どうにかならないか、と。

……ほんと美咲ちゃんの加久田に対する態度はどうかと思うんだけど。
でも、他の人には礼儀正しいし。
加久田にだけ、ってのがなー。
もしかして、加久田のことが、好き、とか?



次の週末。
加久田に借りたスーツを着て、裕紀の結婚披露宴に出席した。
同僚からは「とうとう男になったか」と大爆笑され、裕紀も笑っていた。
狙いはばっちり、ひたすら、道化に徹した。

……そうでもしないと冷静でいられない。


二次会に誘われたものの、断った。
断ったものの、家にひとりでいるのがなんとなく嫌で、どこかで飲むか、と店を探し始めたとき……視界に、知っている人がいた気がした。
慌てて探すと、加久田がひとりで歩いていた。

「加久田。
おーい、加久田!」
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