可愛い女性の作られ方
「篠崎先輩!?」
 
声を掛けると、驚いた顔で駆け寄ってきた。

「ひとりか?」

「はい。
……ってかほんとにその格好で、出席したんですね」

「あたりまえだろ。冗談とでも思ってたのか?
……なあ、暇ならその、ちょっと飲みに付き合わないか?」

「えっ。
いいんですか?」

「誘ってるのはこっちだし。
こんな格好の女と飲むのは嫌かもしれないが」

「いいえ!
喜んでお供します!」

「よしっ!」
 
加久田とふたりで、適当な居酒屋に入る。
適当に料理と酒を頼んで、適当な莫迦話。
元気ばかりが空回りしている気はしていたけど、そこは気付かないふり。

二時間ほど飲んで店を出たけど、まだ飲み足りない気がしていた。
もう一軒、とも思ったけど、いい加減まわりの視線が鬱陶しくなってきてたので、なんとなく加久田を家に誘ってみる。

「その、加久田、よかったらうちで飲み直さないか?」

「……いいんですか?」

「あー、おまえも知っての通り、相変わらず汚い部屋だし、気の利いたもんなんて出ないけど。
それでいいなら」

「じゃあ、お邪魔します」

「うん」
 
一緒に電車に乗って二駅ほど移動する。
電車の中でも視線が鬱陶しい。

……そんなに女が男物のスーツ着ていちゃ悪いか?

マンションに向かう途中で、コンビニに寄る。
適当に酒やつまみを買い込んだ。

「ほんと汚い部屋で悪いけど。
どうぞ」

「お邪魔します」
 
買ってきたビールなんかを冷蔵庫に入れ込んで、ついでに中から豆腐と大葉、トマトにアボカド、玉ねぎなんか取り出してみる。

ツナ缶を開けて、刻んだ大葉とマヨネーズで和えて、さらに刻んだトマトと一緒に豆腐に載せて一品。

アボカドスライスして、玉ねぎ・鰹節と合わせて、わさび醤油と一緒に出してもう一品。

もうちょっと作りたいとこだけど、使えそうな食材がこれだけしかなかった。

「え?
先輩、いまこれ、作ったんですか?」

「たいしたもんじゃなくて悪いが。
食べてていいから、ちょっと着替えさせてくれ」

「いいですよー。
いただきまーす」
 
食べ始めた加久田を横目に、寝室を閉めて部屋着に着替える。
戻ると加久田は、嬉しそうに料理……じゃないな。
つまみをつついていた。

「先輩!
滅茶苦茶おいしいです!」

「あー、そりゃ誰が作っても同じ味になると思うが……」

「いえいえ。
絶対おいしいですって!」
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