可愛い女性の作られ方
……うん。
おまえもう既に、結構できあがっている?

冷蔵庫から買い置きの日本酒と食器棚からグラスを出して、ソファーの加久田の隣に座る。

「……そんなに旨いか?」

「はい!
おいしいです!」
 
上機嫌ににこにこ笑っている加久田は、結構可愛い。

……そういえば。

裕紀は作った料理、こんなふうに褒めくれたこと、一度もなかったな。
あ、だめだ。そんなこと考えていたら。

涙が出そうになって、酒と一緒に流し込む。
その後も、にこにこと笑い続ける加久田を眺めながら、ひたすら酒を流し込んでいた。

「……私だって」

「……先輩?」

「なんで?
私だって、ちゃんと家事、できるんだよ?」
 
……やばい。
なにいっているんだろ、私。
相当酒が回っている。

「片付けは苦手だけど、料理は得意だよ?
お洗濯だって、アイロンかけだって、ちゃんとできるし」
 
……黙れ、私。
黙れ。

気持ちは焦るけれど、口は止まらない。

「そうですね。
このおつまみ、凄くおいしいです」

「おつまみじゃなくて、ちゃんとした、
料理だってできるよ?」

「知ってますよ。
いつも先輩のお弁当、おいしそうですから」

「がさつっていわれるけど、
いっぱいいっぱい考えてるんだよ?」

「わかってますよ。
先輩がきめ細かい気の使い方ができる人だって」

「私だって、私だって……」
 
……黙れ私。
これは加久田だ。
裕紀じゃない。

「……先輩。
そんな可愛いことばっかりいってると、
ちゅーしちゃいますよ」

「かくた……?」

「俺がいままで、どんだけ我慢してたと思ってるんですか?」

「なにいってんの……?」
 
……気が付いたら、ソファーに押し倒されていた。

「知ってましたか?
同じ班に配属されたときから、先輩に憧れてたこと。
まわりの奴が先輩のこと、『中身が男』とかいってても俺は先輩が誰よりも女らしいこと、知ってました。
高城先輩と別れて、無理に男っぽくしようとしてる先輩みてて、つらかった」

「かくた……変だよ」

上からじっと、加久田が私の顔を見つめている。

「俺じゃない、あいつにいってるんだってわかってます。
でも、こんなふうにアピールされたら、もう無理です」
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