可愛い女性の作られ方
嫌なのに、やっぱり溺れそうなほど気持ちよくて、あたまはパニックだった。

「かくた……こんなの……やだぁ」

「そんな怯えた目で見て……。
俺のこと、誘ってるんですか?」

「ちが……ん……」
 
泣き出しそうに顔を歪ませると、また唇を重ねてくる。

「……やだぁ。かくた、やだぁ……」

見上げると、複雑な色に瞳を染めた、加久田がいた。
いままで見たことない加久田は、ひたすら私を怯えさせ、怖くて、不安で、まるで子供のように、嫌だということしかできなかった。

「すみません、先輩。泣かせるつもりはなかったんです」
 
私の目尻にたまる涙を指で拭うと、まるで、壊れ物にでもふれるかのようにそっと私を抱きしめる。

「俺、欲張りで。
もう我慢しないって決めたら、あれも、これもって。
全然余裕がなくて。
自分が焦って先輩怖がらせたら元も子もないの、わかってるのに。
いってること、支離滅裂ですよね。
わかってるんです。
すみません」
 
……不意に。

加久田の体が、小さく震えていることに気が付いた。

……不安なのは。
私だけじゃないんだ。
加久田は、加久田なりにいろいろ考えているんだ。

そう思うと、腹が立つというよりも、少し可愛く思えた。
そっと背中に腕を回して恐る恐る抱きしめると、びくりとその背中が、大きく震えた。

「……加久田。
無理強いは嫌だ」

「合意の上だったらいいんですか?」

「……そうだな」

「先輩は合意してくれるんですか?」

「……時と場合による」

「それってどんな時と場合ですか?」

「あー、もう、わかった!
一回キスして嫌がらなかったらそれ以上のこと、してもいい。
……ただし、常識的な場所で、だぞ?」

「わかりました!
ありがとうございます!」
 
やっと離れた加久田は、いつもみたいな人懐っこい笑顔になっていた。

……とりあえず。
まだ暫くはそんなにぎくしゃくした関係にはならなくてすみそうな感じ、かな?

「とりあえず、今日はもう、帰れ」

「えーっ。
もう一回、キスしたらダメなんですか?」

「今日はもう二回も、拒んだからダメ」

「ケチー」
 
唇尖らせてむくれている様はなんか可愛くて、思わず「いいよ」といってしまいそうになるけど、最初から甘やかせてはダメだ。
第一、まだこいつに恋愛感情は持っていない。

「その、週末だったら考えてやらないこともないので、今日は帰れ」

「……ほんとに?」

「ほんと」

「ごはんもつけてもらえますか?」
「……わかった。
つけてやる」

「やったー!
なら帰ります!
週末が楽しみです!」
 
なんかもう、ぴょんぴょん跳ねそうな勢いで、
加久田は帰っていった。

……っていうか、私はあんな奴に少しとはいえ、気を許して正解だったんだろうか?
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