可愛い女性の作られ方
よくそんなに開くなってくらい、目を見開いて加久田は驚いているけど……仕方ないだろ、この場合。

「長くは声が出ない。
話すことは決まってるから、おまえにも可能」

「無理ですって!」

「無理じゃない。
やれ。
美咲ちゃんが会議室押さえてくれてる。
時間がない。
練習」
 
わたわた泡食っている加久田を引っ張って会議室へ行く。
プレゼンまで残り一時間しかない。

「練習。
大体わかるだろ」

「……はい」
 
私が椅子に座ると、加久田は諦めたように練習を始めた。

……はっきりいって。
加久田の見栄えはいい。

別に特別顔がいいとか背が高いとかではないのだけれど、きれいな姿勢に、よくとおる低い声。
なにより、全身からその誠実な性格が滲み出ている。

「大丈夫。
問題ない」

「……そうですか?」

「フォローはする。
質疑応答もできると思う。
悪いが、頑張ってくれ」

「はい」

ぽんぽんと肩を叩くと、加久田は心持ち緊張した顔で私を安心させたいのか、少し笑った。


時間になって、指定された大会議室へ行く。
今日のプレゼンは同じ課内の班でアイディアを競わせてこの春発表の新商品を決めよう、というものだ。
部屋に入る前にマスクは外す。
咳き込んでいる訳でもないし、体調が悪いのをあまり知られたくない。

……特に。
裕紀の奴には。


裕紀は別班の班長をしている。

……職場ではライバル、って奴になる。

つきあい始めたきっかけがなんだったかのなんていまとなってはもう、思い出せない。

初めは同期で同じ班だった。
別の班になって、互いに班長になると、同じ班長としての愚痴をこぼすのにちょうどいい相手になって、ふたりで飲みに行く機会も増えた。
そして気が付いたら付き合うようになっていて、そのうち年も年だし、結婚とかも考えていた。

……でもあの日。
唐突にいわれたのだ。

――おまえとはもう、つきあえない、と。
 
その日は普通に会って、一緒にお昼を食べて、映画を見て。
で、帰ろうか、どうしようか、って迷っていたら、真剣に裕紀が私の顔を見てきた。

「優里(ゆり)。
話がある」

「……なに?」

「……おまえとはもう、つきあえない」

「……どういう、こと?」
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