可愛い女性の作られ方
「いや、現に死んでないし。
それで十分やっていけてるし」

「前から、先輩はいろいろかなりずれてるとは思ってましたけど、ここまでとは思ってなかったです。
俺、しっかり矯正させてもらいますから!」

「なんか知らんが、使命感に燃えてるとこ悪いけど、これで十分生活できてるから……」

「俺が!
困るんです!」
 
……うん?
なんでおまえが困るんだ?
私は困らないから、放っておいてほししいのだけれど。

「ところで先輩。
いまからどうするんですか?」

ひとしきり怒って気がすんだのか、加久田は話題を変えてきた。

「ああ。
おまえが帰ったら、この部屋片付けようかと思って」

「えっ。
俺のため、ですか?」

「あー、変な期待してるとこ悪いが、
そろそろ雑誌や本を処分しないと、床に不安が……」

「……ああ。
そうですね」
 
所狭しと積まれた本や雑誌に、加久田は苦笑いしていた。

趣味が読書なせいもあって、本は無尽蔵に増えていく。
増え続ける本に辟易して図書館を利用していた時期もあったけれど、人気の本は予約してもいつまでたってもまわってこないし、なにより貸出期間があるのが痛い。
借りたはいいが途中で急ぎの仕事なんか降って沸いてくると、結局読み切れないまま返す羽目になる。
また結局、古書店や本屋で買い始めて、読んだ本と、いつか読もうと思っている本で溢れかえっている。

「全部この本、読んだんですか?」

「あー、半分は確実?
本屋に行くとついつい買ってしまうから、どんどん増えていくんだよな」

「……仕方ないですね。
手伝いますよ」

ニヤリ、と加久田が口元を歪ませる。

「いやいいって!
加久田だって、休みの日、やることあるだろう?」

「って、先輩。
途中で読んだか内容確認、とかいって、そのままどっぷりはまっちゃって、全然進まないまま終わるタイプですよね?」

「ううっ」

彼のいうことは事実なだけにいい返せない。
きっとひとりでやっていたら、いつまでたっても片付かないだろう。

「はい、けってーい。
俺、ごはん終わったら、近所のウニクロでちょっと服、買ってくるんで。
その間に朝ごはんの片付けとか、しちゃっててください」

「……はい」
 
私が朝食の片付けしている間に、加久田はワイシャツにスラックスだけで出ていった。

皿なんか洗い終わって、洗濯機も回しておこうと洗面所に行くと、しっかり私の歯ブラシが刺さっているコップに、知らない歯ブラシが差し込んであった。
さらに、T字カミソリとか、シェービングフォームなんかも置いてあって……あいつは、こっそりお泊まりセットを彼氏の家に置きたがる女子か?
洗濯物の中には流石に下着は入っていなくて、なんとなくほっとした。

暫くして帰ってきた加久田は、洗面所で着替えていた。
流石に、スラックスで片付けはいやだったらしい。
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